図書館情報学を学ぶ

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こうの史代について

さんさん録 (1) (ACTION COMICS)

さんさん録 (1) (ACTION COMICS)

偽日記2006年5月17日付『こうの史代さんさん録」を読んだ。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/nisenikki.html
『長い道』の主人公のカップルの女性、道は、やさしさや慎ましさと言う言い方では捉えきれず、むしろ「気味が悪い」とさえ言えるほどだ。
女性キャラクターは、たんに受け身の存在というのではなく、受け身であることの貪欲な欲望のなまなましさがある。
そして、揺るがしがたい強いものが核にありながらも、周囲の出来事や人物を繊細に感じ、それによって揺れ動く様も捉えられている。だから読者は、この人物に気味の悪さを感じつつも(そして、けっこう「胸焼け」しつつも)、好意をも感じざるを得ない。

『長い道』の道の行動に伴う気味悪さというのは、他の方も指摘しています。

『長い道』はホラー漫画だ。
http://d.hatena.ne.jp/eyck/2005082

道の受け身の態度の気味悪さについての指摘を読むたびに、私は筒井康隆の短編集『ホンキイ・トンク』に収録されている『小説「私小説」』という短編小説を思い出します。この作品では傲慢な作家とその妻が登場するのですが、妻はどんなに作家が傲慢であっても常に反抗しようとしない。その受け身の姿勢はひたすら不気味に書かれています。『小説「私小説」』では妻を不可解な存在として書かれているわけですが、道は一人の人間としてしっかり理解されるように書かれている。つまり、「周囲の出来事や人物を繊細に感じ」る道の心の内が書かれていることで、道の不可解な部分も含めて、道という登場人物を読者に肯定させる描かれ方をしていると思います。この点が、偽日記でも指摘されている通り、こうの作品の魅力なんでしょうね。