カミュ『ペスト』
- 作者: カミュ,宮崎嶺雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1969/10/30
- メディア: ペーパーバック
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最初に読んだときには、私は『ペスト』が「幸福」について書かれた小説だと感じていた。主人公のリウーが、最後に「幸福」について語る場面が登場するのが印象に残っていたからである。しかし、今読んでみると、この小説はむしろ「不幸」について書かれているのではないかと思う。ペストといいう流行病にさらされ、理不尽に死んでゆく人々について克明な描写をしており、その最中で、ペストを神の戒めだと思いこむ人、諦めて自暴自棄になる人、ペストに立ち向かう人、様々な人物が登場してくる。ペストという「不幸」に、それぞれの手法で対応しようとしているのである。
カミュは17才のとき、結核を患い、孤立していた彼の唯一の慰めであったラグビーを諦めることとなった。*2彼にとって結核は『ペスト』と同様、抗うことのできない「不幸」(彼の言葉では「不条理」)であったのだろう。
私は幸いにして人生を決定的に変えるような「不幸」には出会ってはいないけれど、ロンドンの同時多発テロや頻発する地震などを見るに、そのような「不幸」がいつ何時降りかかってくるのかわからないのである。そのとき、私は「不幸」に対してどのように対応するだろうか。崇めるか、諦めるか、対抗するか…。『ペスト』を読んでいると、そのようなことを考えさせられる。
*1:本人は否定していた