図書館情報学を学ぶ

はてなダイアリーで公開していたブログ「図書館情報学を学ぶ」のはてなブログ移行版です。

カミュ『ペスト』

ペスト (新潮文庫)

ペスト (新潮文庫)

 『マルテの手記』と同時進行で、『ペスト』を読んでいる。実はこれも再読である。たしか最初に読んだのは高校2年の夏休みの頃だったか。学校図書館の海外小説の棚にあったのを偶々引っ張り出して読んでいたら、はまってしまったのである。カミュといえばサルトルに並ぶ実存主義者として有名だが*1、当時の私はそんな背景を全く知らずに読んでいたのである。
 最初に読んだときには、私は『ペスト』が「幸福」について書かれた小説だと感じていた。主人公のリウーが、最後に「幸福」について語る場面が登場するのが印象に残っていたからである。しかし、今読んでみると、この小説はむしろ「不幸」について書かれているのではないかと思う。ペストといいう流行病にさらされ、理不尽に死んでゆく人々について克明な描写をしており、その最中で、ペストを神の戒めだと思いこむ人、諦めて自暴自棄になる人、ペストに立ち向かう人、様々な人物が登場してくる。ペストという「不幸」に、それぞれの手法で対応しようとしているのである。
 カミュは17才のとき、結核を患い、孤立していた彼の唯一の慰めであったラグビーを諦めることとなった。*2彼にとって結核は『ペスト』と同様、抗うことのできない「不幸」(彼の言葉では「不条理」)であったのだろう。
 私は幸いにして人生を決定的に変えるような「不幸」には出会ってはいないけれど、ロンドンの同時多発テロや頻発する地震などを見るに、そのような「不幸」がいつ何時降りかかってくるのかわからないのである。そのとき、私は「不幸」に対してどのように対応するだろうか。崇めるか、諦めるか、対抗するか…。『ペスト』を読んでいると、そのようなことを考えさせられる。

*1:本人は否定していた

*2:参考:http://meigen.ivory.ne.jp/meiku/camus.htm