図書館情報学を学ぶ

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図書館システムの未来を創る一滴の雫 ―― パターン氏による図書館利用データ公開の本当の理由

つい先日、図書館の利用統計データを外部に提供するというアイデアについて考察しましたが、なんとそれを実現した大学図書館が現れました。

ハダーズフィールド大学図書館のパターン氏(Dave Pattern)が、自館で約13年間にわたり蓄積した、8万タイトル分・300万件の貸出記録をクリエイティブ・コモンズライセンスで公開しています。
公開したデータは貸出記録のほか、OPACで表示したレコメンデーション(「この本を借りた人は、この本も借りています」)記録、およびFRBR風の ISBNのインデクス(LibraryThingから抽出)などです。貸出やレコメンデーション記録は、統計的処理がほどこされています。

リンク先で紹介されているリリース記事を少し読んでみたところ、データ公開のきっかけとなったのはJISC*1が主催する「学習者の行動履歴の活用」をテーマとしたワークショップだったそうです。

このワークショップは、Library2.0の枠組み作りを推進する TILE Projectの一環として開かれたもので、学習行動とは何かといった概念的な話から、ローカルに埋もれた行動データを活用するソリューションの開発といった技術的な話まで包括な議論が行われていたようです。
今回、データを公開したパターン氏は、この経緯を見ると単にデータマイニング研究への協力ではなく、新たな図書館情報システムを開発する道筋を作るという大きな目的に拠っているのだということが分かります。実際、パターン氏は公開したデータを活用したWebサービスの開発やWeb APIの実装を予定としているようです。

「これは大きな絵の1ピースにしかすぎない」

パターン氏はまた、リリース記事でこう言っています。

このデータは一滴の雫、大きな絵を作る1ピースでしかない、あなたの図書館のデータをここに加えることをぜひ考えて欲しい、そうでなければ、何がデータ共有の障壁となっているのかを教えて欲しい。そうしてくれれば、私はその障壁をどうすれば乗り越えられるのか一緒に考えよう。

彼は非常に情熱的な筆致で多くの図書館への協力を要請しています。どうやら、彼の本当の狙いはあらゆる図書館の利用行動を抽出・統合した情報利用メタデータの作成にあるようなのです。
まだプランの段階ではありますが、これは非常に意義深い試みだと思います。もしこのようなデータがあれば、例えまだ設立したばかりの図書館であっても自館に高度なレコメンデーション機能を実装することができます。Library2.0の推進コストを下げ、全体的な環境の底上げを狙うことができるのではないでしょうか。
今回のデータ公開は、他人事として扱うべきではないと思います。ぜひとも日本の図書館も自館に埋もれている利用履歴を活用して、より良いサービス作りに向けてパターン氏の試みに協力する体制ができて欲しいですね。
自分もまた、このような動きに何らかの形で今後も参加していきたいと思います。

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*1:教育・研究におけるICTの活用を推進するイギリスの団体。参照:http://www.jisc.ac.uk/