パーソナライズそのものに対する唯一の批判 『インターネットは民主主義の敵か』
- 作者: キャスサンスティーン,Cass Sunstein,石川幸憲
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2003/11/01
- メディア: 単行本
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id:argさんが読みすすめているという『インターネットは民主主義の敵か』。私も偶然、先月読了していたので若干内容を紹介したいと思います。
本書では、民主主義を成立させるのに重要な「討議」=多様な人が社会問題に対して行う議論の場づくりを、インターネットが阻害しているのではないか?という仮説によってインターネットを批判しています。
本書の注目すべき点は、パーソナライズそのものへの批判を行っているという点です。プライバシーの侵害など、パーソナライズによって起こる副次的な問題への批判は数多くあれど、パーソナライズ自体は便利な機能であるとして肯定されているのが一般的であると思います。しかし、本書では便利な機能であるはずのパーソナライズの機能によって民主主義が成立しなくなると危険視しています。
なぜパーソナライズが民主主義を阻害するのか?それは、以下の論理に基づくものです。
- 民主主義は、市民が政治に干渉できる政治である
- 逆にいえば、民主主義は市民の政治参加無しに成立しえない
- 市民は政治参加するために、多様な社会問題に関心を持たなくてはならない
- パーソナライズはユーザーの好む情報を積極的に提供する機能である
- 逆にいえば、ユーザーの嫌う情報は提供されない
- ユーザーは関心のある情報のみを取得するようになり、関心の無い社会問題の情報は無視するようになる
- パーソナライズはユーザーの視野を狭くさせ、多様な社会問題に関心を抱かなくなる
- ゆえに、パーソナライズは民主主義を阻害する
本書は政治に着目した批判ですが、CGMの文脈でも有効な批判であるといえます。CGMはユーザーがサービスの運営に参加する形態であり、ユーザーは他人を配慮した運営参加をすることが望まれる。しかし、パーソナライズが過度に働くとユーザーは異なる関心を持つ他のユーザーを認識できなくなり、自己中心的な運営参加(ネガティブコメントなど)をするようになり、サービスの運営を不安定にさせます。これが昂じるといわゆる「祭り」となるのでしょう。
毎日新聞などの問題などにもみられるように、ネットが社会に影響力を持つという認識は決して大げさではありません。自分自身が社会を崩壊させる張本人とならないよう、ネットをよく利用する人々にぜひ本書を読んで考えていただきたいと思いました。
もちろん、自分自身もこの問題について考えていきたいと思います。