図書館情報学を学ぶ

はてなダイアリーで公開していたブログ「図書館情報学を学ぶ」のはてなブログ移行版です。

ガバメント2.0と日本の政府ウェブサービスの現状

ティム・オライリー氏がウェブ2.0に続く概念として「ガバメント2.0」を提唱しており、そのアプローチとして「プラットフォームとしての政府」の実現を主張されているようです。リンク先ではアメリカでの具体例が提示されています。特にData.govは政府が公開している生データを統合検索できるなど、実際にプラットフォームとしての活用に期待が持てそうです。イギリス政府がTwitterに関心を抱いているところを見れば、ガバメント2.0は決して夢物語とは言えないと思います。さて、それでは「プラットフォームとしての政府」を体現してくれそうな例が、日本には存在するのでしょうか。

e-Gov、e-Statに見る問題点

日本で行政資料を総合的に提供しているWebサービスといえば、「e-Gov」と「e-Stat」が存在します。

e-Govでは全省庁のウェブページや法令を横断検索できるうえ、税金や年金などの各種手続きを電子的に行うことができます。一方e-Statでは政府が提供する統計資料を横断検索でき、RSSフィードをカスタマイズして配信することも可能です。扱っている情報量は非常に多く、情報源としての魅力を感じるかと思います。
しかし、これらのウェブサービスは「プラットフォーム」とは遠いところにあります。まずどちらも検索パラメータがURLにないため、GoogleなどのようにURLを直接叩いて検索結果を得るということができません。当然RSSフィードによる検索結果の配信機能も実装されていません。なので、e-Govなどの検索機能を利用してマッシュアップをする場合、PythonPerlで言えばMechanizeなどを用いてスクレイピングする必要があります。これはマッシュアップ開発者に少なからず負担を強いることになるでしょう。また、e-Statに関していえば、地図でみる統計における「データダウンロード」のページも、画面遷移が非常に多く使いづらい印象を受けます。スクレイピングをするにも、かなり手間なのではないでしょうか。
e-Govについては電子申請の機能をAPIとして公開しているようですが、情報提供機能の部分もぜひAPI公開を進めてもらいたいと思いますね。

プラットフォームとなるよう努力するPORTA

一方、e-Govに並ぶ規模の公的なウェブサービスで、APIを公開しているところといえば、PORTAがあります。

PORTAは国立国会図書館が所蔵する資料の横断検索やブックマーク機能を提供するポータルサイトです。サービス開始当初その斬新なUIから、はてな界隈でかなり騒がれたウェブサービスです。現在ではUI自体は落ち着いたものとなりましたが、現在でも情報源の追加など精力的に運営を継続しています。
さて、PORTAには上記の検索機能をAPIとして公開しています。

対応するプロトコルOpenSearchやSRU/SRW、OAI-PMHなど。e-Govなどと比べるとプラットフォームとしての可能性が高いといえます。また、国立国会図書館には公的機関のウェブサイトをアーカイブしているWARPというウェブサービスがあるため、行政資料の一部をAPI経由で取得することが可能です。このことを考えると、e-GovのAPI機能をPORTAが補完するという道筋もあり得るかもしれません。
PORTAは、国内ではガバメント2.0に最も近いサービスかも知れません。しかし、横断検索ゆえの検索時間の遅さや、外部からの大量のリクエストを禁止していることを考えると、マッシュアップサービスの開発支援のためにはより機能を追求していくことが必要でしょう。

まとめ

以上、行政資料に関する官製ウェブサービスを3つほど挙げてみました。まだ他にも候補としてみるべきサービスは様々ありますが、規模で考えればこれら3つのサービスが「プラットフォームとしての政府」を担うのが適当ではないかと思います。また、今回は政府に対する批判となってしまいましたが、ユーザーである国民の側も「どのように行政資料を配信してくれることを望むか」というニーズの発信もしていく必要があるでしょう。ティム・オライリーは今回取り上げた記事で「政府自身が自らを単なる自動販売機と考えることを止めて、市民による公共事業の組織者に変わったらどうなるだろう?」と問いかけていますが、ガバメント2.0の精神はまさしく自動販売機的な思考を国民が止めたところから発生してくるのだと思います。
現状公開されている情報源をもとに、国民はどんなソーシャルウェブを作り出せていけるか。そういうことを考え、実践していきながら是非とも政府がプラットフォームとなる未来を夢見たいと思います。