新聞社にとって、アーカイブの公開とは「炎上リスクの回避」である
引き続き「毎日新聞謝罪の虚偽発覚問題」について触れてみたいと思います。
先日の記事では、今回の問題を取り上げて以下のように主張しました。
- 「ネットユーザーの分散的な組織行動」と「国立国会図書館が保有する大量のアーカイブ」とが結びつくことにより「時を超えるメディア監視システム」が形成された
- 今後は毎日新聞社だけでなく他のメディアに対しても同様の監視体制によるバッシングが引き起こされるだろう
もしこの監視システムが適切に働けば、今までメディアが隠してきた暗部が明かされ、メディアの問題点を改善させる方向に向かわせることができます。
監視システムが適切に動けば、です。
ネットユーザーという匿名のメディア監視体制は、ともすると過剰で感情的な方向に向かいがちです。些細な言動や行動に対して過剰なバッシングが行われること。これは「炎上」、専門的には「サイバーカスケーディング」という現象として以前から問題が指摘されていますが、国立国会図書館というアーカイブの要素が入ってくることで、もう一つの問題点が浮かび上がってきます。
それは、自分たちに有利な情報のみを集める調査が行われることです。公平でない調査をもとにした批判は極端な言論に陥り、それがさらに過剰なバッシングへと繋がります。
国立国会図書館に足を運ぶのはネットで情報を得るのと比べてコストが高い行動です。そのため、国会図書館にしか無い資料を証拠資料とすると、その検証が行われにくくなります。その調査が偏向しているということに気づきにくくなるのです。
たとえば、今回の毎日新聞の記事のように公序良俗に反する記事が過去にあったとします。そして、その記事が掲載された直後に新聞社自身が謝罪記事を掲載していたとします。この記事が掲載されたアーカイブを国立国会図書館から見つけ出した人が、謝罪記事を取り上げず、問題の記事だけをネットにあげたらどうなるでしょうか?
新聞社が過去に謝罪しているにも関わらず、あたかも隠ぺいしていた問題かのように批判がおこなわれる可能性が高いでしょう。
ここでは、もはやメディア監視システムはメディアの体制を改善させるという目的ではなく、単なる攻撃を目的として動くことになります。
アーカイブの公開は偏向調査を減らす
上記のような恐ろしいバッシングが起こらないようにするためには、新聞社はいかなる対策を打つべきなのでしょうか。
それは、新聞記事のアーカイブを無料ですべて公開すること、です。
もしネット上にすべての新聞記事が存在すれば、問題記事が発覚する確率は高くなりますが、同時に謝罪記事などのポジティブな要素も見つけやすくなります。これは、過剰なバッシングの根源である偏向した調査を叩き、騒ぎを鎮静化させることに繋がります。
現在、日本の新聞社は有料で新聞記事アーカイブを提供しています。県立図書館や大学図書館など、一般人がアーカイブを利用する場所は限られています。しかし、このようにアーカイブを希少価値のあるものとして扱ってしまうと、それだけ検証作業が遅れることになります。
新聞記事アーカイブのネット公開は、自分の首を絞めるものだ、とよく言われます。しかし、今やそれは逆なのです。アーカイブの有料化は自分の首を絞めるものだと言えます。
これはソフトウェア開発における脆弱性の発表と類似しています。一見すると脆弱性の発表はソフトウェアが危険にさらされるように思えますが、実際には改善の協力を図りやすく、隠ぺいよりも効果があります。*1
メディアの世界でも、同じ対策を打つ必要があるのではないでしょうか。
実際にあったミスを謝罪し改善するのは簡単です。しかし、もともと存在しないミスを改善することはできないのです。新聞社が生き残るには、対応不可能なバッシングを減らすことが最優先課題だと、自分は考えるのです。
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*1:もし改善方法が分かっていれば、の話ですが