図書館情報学を学ぶ

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無方式主義という著作権の弱点

先日、クリエイティブ・コモンズについての記事を書いてから、著作権についてつらつらと考えていました。
あくまで私の考えですが、著作権の「無方式主義」は長所であると同時に権利の活発な活用を阻害する弱点になってしまっているのではないでしょうか。

無方式主義とは

無方式主義とは、特許や商標のように権利の申請や表示がなくとも、著作物を制作したと同時に著作権が与えられるべきという考え方です。著作権の国際条約であるベルヌ条約で採用されている理念であり、日本の著作権法もこれに基づいています。
無方式主義があるために、例えば小学生が描いた絵などを著作物として認め、著作権を与えることができます。法律の知識に疎い人間も活発な創作活動を行えるのがこの理念の特長です。
しかし、逆に言えば無方式主義のために著作者であるクリエーターや著作物を利用する人々が著作権法を理解するインセンティブを失わせているのではないか?と私は思うのです。つまり、「法律を知らなくても保護されるなら、学ばなくていいや」と考えさせてしまうのではないか。
著作権法はあくまで著作者が有利に働く「契約」を著作物の利用者との間に結ばせる下地を作っているにすぎません。著作者が自らの著作権を把握し、それを活用しない限り、著作権法は意味を為さないのです。

学会の著作権ポリシー問題

著作権が活用されず、著作権法のみが働くとどうなるか。その実例のひとつが、以下の学会の著作権ポリシーの問題であると私は思います。

国内学協会等の著作権ポリシー共有・公開プロジェクト(SCPJプロジェクト)
(平田完さん、筑波大学千葉大学神戸大学

名前の通り、国内の学協会の著作権ポリシーを調べ上げて公開する、というリポジトリに論文登録する際に便利なSCPJプロジェクトについて。

昨年度で学会名鑑に入っているようなところはあらかた登録した、とのことでこれからは著作権ポリシーがグレーな学会とかにどう働きかけるか、って話だそうだが、そこで問題になるのが今の体制の限界なんだとか。

学会の著作権ポリシーがはっきりしないために、機関リポジトリに登録していいか判断できない。これは、著作権の活用が阻害されていると見ることができます。登録OKというポリシーであれば研究者は何の不安も無く登録できますし、登録不可というポリシーであればリポジトリの運営者などが許諾交渉することが容易になるわけです。*1
学会が著作権に対する何らかの主張やアクションをとらない限り、機関リポジトリ側としては非常に対応が取りづらい。ここでは、著作権法の目的である「文化の発展」=「著作物の創作活動および利用活動の活発化」が果たされているとは私は思いません。

著作権ポリシー問題と無方式主義

著作権ポリシー問題の原因は、無方式主義によって著作権保護というインセンティブが無条件に与えられているからではないかと私は思います。著作権がもし、特許のような申請・表示が必要な権利であれば、ポリシーをはっきり打ち出しているのではないでしょうか。それを怠れば学会運営が成り立たなくなってしまうのですから。
私は基本的に、無方式主義を肯定的にとらえていますし、上記に挙げた長所がある以上今後も採用されるべきだと思います。しかし、同時に無方式主義が引き起こす「著作権関係者の無理解」という問題をいかに解決するかを考えるのも重要であると思います。
あえて著作権の無方式主義を限定的に無効にする枠組みを考えるなど、批判的な論議も必要なのではないでしょうか。

終りに

以上、長々と自分の考えを書きましたが、自分は著作権の専門家ではないので、突っ込みどころが多いと思います。*2著作権に詳しい方のご意見もいただければと思います。

*1:後者の類似例として、YoutubeJRCなどの著作権管理団体と結んだ包括契約が挙げられます。原則として不可でも、交渉しだいで許諾されることもあり得るのです。

*2:特に著作者と著作権者と著作隣接者の区別とか。本来は3者の立場を記述した上で考察すべき。