図書館情報学を学ぶ

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ブックハンティングは大学に利益を与える 〜プロジェクト型ブックハンティングの提案〜

ブックハンティングについての議論が図書館系ブログ内で広がっています。詳しくは先日作成した上記まとめ記事を参照して頂きたいのですが、主要な点としては「学生の選んだ本」=「大学図書館にとってふさわしい蔵書」なのか?という点。ブックハンティングを通してベストセラー小説が多く選書されている点に着目して、この点に懐疑を示したのが前半の記事群だと思います。これに対し、では通常の選書でその種の本はどれほど蔵書されているのかNacsis-Webcatを用いて全国の大学図書館を調査したのが後半のid:humotty-21id:min2-flyさんの記事になります。

選書の本当の問題点は?

議論の流れを見る限り、ブックハンティングが通常の図書館員による選書よりも、「大学図書館にふさわしくない」と思われるような本を選ぶリスクが高いという最初に提示された問題点は否定されているようです。むしろ、その問題点は選書作業全体に広がっていったように思います。
大学図書館は、学生や研究者の研究を効率的に支援する目的で設立されており、資料を購入・提供するのも大学全体の資料費を節約するという目的があります。*1そのため、研究とは関係の無い資料を購入するということは大学にとって損失を意味する。これがベストセラー小説が選書されることへの批判の理由だと思います。もしその批判が正しいとするならば、上記のお二方の調査を見る限り、通常の図書館員による選書で既に損失が発生しているといえるでしょう。
しかし、必ずしもベストセラー小説が損失を発生させているとはいえません。何故なら、文学などの分野ではそれらが研究材料として活用することが十分あり得るからです。芥川賞作家の著作であれば、芥川賞の歴史を研究する学者にとっては立派な研究資料です。そして、他の流行書籍に対しても、このようなことがあり得ます。そのような可能性を考えずに、ただそれらを「ふさわしくない本」として断定してしまうのは、研究に対する偏見といえるでしょう。このあたりが、選書業務の評価の難しいところであると思います。
つまり、選書において問題視されるのは、本当は選ばれた本自体ではなく、その生産性にあるわけです。

ブックハンティングの利点

本の生産性という観点でブックハンティングを見てみると、1つの利点が浮かび上がります。それは、資料を学生がどのように活用するか、そのユースケースを収集できるチャンスを得られるという点です。これは、選書された資料の生産性を評価するための有効な材料になります。そして、それは選書方針を最適化させることへと繋がるのではないか、と思います。ユーザーテストを通じてサービスの機能・デザインを修正していくというような、ユーザー中心設計を行えるのではないか。そのサイクルを上手く作れれば、ブックハンティングは大学に利益を与えるのではないか?というのがブックハンティングに対する私の考えです。
ブックハンティングをこの観点で見ると、1つの「なすべきこと」が浮かび上がります。それは学生の学習プロセス全体を見守るということです。サービステストとしてブックハンティングを見た場合、単に選書して終わり、では結果を出せたことにならない。その資料がいかに活用されたか、追跡調査する必要があります。さらに、ブックハンティングの環境も、想定外の影響要素が無いように整える必要がある。そう考えていくと、サービステストとしてのブックハンティングは学習プロセス全体に関与していく必要があると思います。

「プロジェクト型ブックハンティング」の提案

では、具体的にそのようなブックハンティングとはどのようなものか?私は「プロジェクト型ブックハンティング」という方式を提案したいと思います。
ブックハンティングが批判されるのは選書された書籍が本当に活用されるのかが分からないという点です。ならば、選書した書籍を活用するところまでサポートしてしまえばいい。
具体的には、大学のカリキュラムと連携して、講義中にブックハンティングを導入させることが考えられます。指定図書制度と異なる点は、学生自身が参考になると思う資料を選べるという点、そして資料の探し方、選び方を履修生間で共有できるという点です。
また、「自分を知る」ための書籍などは、就活セミナーなど大学のカリキュラム外のイベントと連携すればいい。要は、大学中のあらゆる団体とブックハンティングを通じたコラボレーションをしていくのです。
このように、ブックハンティング単体で行うのではなく、学習全体のプロセスに埋め込んで実施する形式であれば、単に趣味のために流行の書籍を選ぶという行動も抑止でき、効果的な選書方針を作る材料になるという点で大学にとって利益を生むことができるのではないでしょうか?

*1:詳しくはid:min2-flyさんがhttp://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080103/1199395653で書かれています