図書館情報学を学ぶ

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メディアと身体性

時間と空間を乗り越える「メディア」

メディアとは、情報を受け取るための媒介となるもののことを指します。古くはのろしなどがそのような役目を果しました。そこでは、メディアは「その場」限りの存在であり、同じ空間にいない者にはそれを伝達することができませんでした。
しかし、文字が発明されて以降、石版、羊皮紙、活版印刷へとメディアは発達していきました。それにより、人間の情報伝達は物理的・時間的障壁を超えていくことが可能になっていきました。
現在ではインターネットの発達・モバイル端末によって、ほとんど障害無く、いつでも・どこでもコミュニケーションをすることが可能となりました。現在はまだ日本など通信技術が十分に整備された国に限定されていますが、じきに全世界的に人々のコミュニケーションが自由に行われるようになるでしょう。それは、技術的な最後の障壁である「言語」をGoogleなどが乗り越えていこうとしているのを見ると、そう遠いことではないと思います。

メディアの発達によって見失いつつある「身体性」

メディアの発達は、私たちに理想的なコミュニケーション環境を提供していきます。しかし、その一方で、私たちに重要なことを忘れさせているような気がするのです。
それは、メディアがいくら時間や空間を超えようとも、私たちの身体は常に一定の場所に留まっているということです。
人の意識は、身体と切っても切り離せません。それは、デカルトの二元論がポンティによって反論されたことからも分かると思います。*1インターネットを用いたコミュニケーションは一見、自分の体や声といった物理的な要因から切り離され、完全に自分の意識による自由なものであるように思えます。しかし本当は、それらが隠されただけで、そのメッセージの投入や受容の際に自分の身体性が埋め込まれているのではないでしょうか。

テレビと身体性

インターネットによる「身体性の忘却」は、テレビの事例を考えるとわかると思います。WEBでは、しばしばテレビのメディアとしての欠点を批判する傾向があり、時にはそれを好んで利用するものを見下す方もいるように思えます。しかし、シナトラ千代子氏は、以下のようにテレビメディアを援護しています。

ということを考えてみます。
家のなかでリビングというのは家族が時間や話題を共有するための場所です。家族構成といってもいろいろあるでしょうけど、そのなかでテレビが果たす役割と特徴というのが

  • 複数人数で共有しやすい
  • 日常的に「ながら利用」ができる
  • どうでもいい話題を垂れ流しで提供する

という、この3点。もちろんこれは「テレビはリビングに必須だ」ということを意味するわけではなく、「これらの役割がリビングに必要だ」という意味ですが、これを代替するものはまだありません。なので、共有スペースとしてのリビングがなくならない限り、テレビはなくならないでしょう。ユーザーにほぼ常時、能動的であることを要求するPCにこれらの能力はいまだにありません。

ここでは、テレビというメディアの特質を、リビングという場所と切り離せないものとして論じています。Webにおいて、テレビがやたら批判されるのは、テレビそのものに非があるというよりも、Webをよく利用する者が「リビング」という場所を忘れ、一面的に見てしまっているからなのではないかと思います。テレビとリビングの関係性を考えると、はてなのサービスである「Rimo」について理解できるのではないかと思います。あれは、Wiiで見てこそ価値があるのです。
Rimoについては置いておくにしても、メディア利用を考えるとき、それを利用する身体の状況について考えることが重要であることがわかると思います。その中でも重要なのは、「メディアをどこで利用しているか」というメディアの「場所」性でしょう。これは、ユビキタスなどの文脈では常識的に語られていると思います。いまや、身体を語らずにメディアを語るというのは時代遅れになりつつあるのではないでしょうか?その兆候は「みんながパソコンから逃げ出してる | fladdict」という記事で見られます。

まとめ:身体をも包括してメディアを語れる概念を

以上、メディアの発達によって見失われつつある「身体性」について語ってきました。これを読んで様々な方がメディアと身体の関係について語っていただければと思います。
私たちは、もっと歴史を顧みることが必要なのかもしれません。のろしが有効なメディアとして使われていたとき、それは人々の生活世界にどのような関係を持っていたのか、人々の「身体」をいかに変容させていたのか。過去のメディア史を振り返ることで、より私たちの生活を豊かにしていく可能性があるのではと思います。

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*1:この部分不勉強のため、明確に言えません。間違っていたら指摘お願いします。