図書館情報学を学ぶ

はてなダイアリーで公開していたブログ「図書館情報学を学ぶ」のはてなブログ移行版です。

次世代の「場所としての図書館」のあり方を自分なりに考えてみました

『情報の科学と技術』最新号を読んでみた

カレントアウェアネス-R 情報の科学と技術 57(9)
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/car/index.php?p=4114
「情報の科学と技術」抄録 Vol. 57 (2007), No.9
http://www.infosta.or.jp/journal/200709j.html

雑誌『情報の科学と技術』の最新号に「デジタルコンテンツの進展と図書館」という特集が組まれていると聞いて、ざっと読んでみました。全体として、デジタルコンテンツ中心の時代になっても変わらない「場所としての図書館」の機能とは何か、ということが論じられているように思いました。

図書館のインタラクティブ性を阻むのは何か

竹内 比呂也「デジタルコンテンツの彼方に図書館の姿を求めて」
http://www.infosta.or.jp/journal/200709j.html#2

私は竹内氏の論文の「インタラクティブ性」について述べた部分に非常に関心を持ちました。著者はWeb2.0のような「ユーザーとユーザー」「ユーザーと運営者」をつなぐ、双方向的なサービス形態が現在の図書館(この論文では大学図書館)に必要であると主張し、それに続けて「なぜ今までの図書館サービスに双方向性が生まれなかったのか」という疑問を投げかけます。
今までの図書館では、利用者間で積極的なコミュニケーションが生まれることは無かった。それはなぜか?それは、図書館員の匿名性にある、と著者は主張しています。


図書館と利用者, あるいは利用者どうしのインタラクティブな関係のコアに位置するのは図書館員である。インターネット上でのインタラクティブな関係の構築はソーシャルネットワークSNS)やネットコミュニティの形成という形で議論されている。ネットワーク上での関係性は, 匿名性はあるにしてもハンドルネームを使うことによって各個人を特定化できることがベースにあることに留意する必要がある。一方, これまでの日本の組織は, 例えば, レファレンスをするのは「レファレンス担当係」であって「特定の誰それ」ではなかった。つまりこれまでは組織の名称はあっても組織内の人間は匿名化されており, 個人を特定化できないようにしてきたが, これからのサービスの基盤としてのインタラクティブな関係性の強化を目ざすのであれば, このようなことでは利用者に受け入れられないのではないだろうか。
つまり、今の図書館には生協の白石さんはいないということでしょうか(笑)
たしかに、今の図書館員には何となく職人気質というか、自分を表に出そうとしない雰囲気を感じます。(あくまで私のイメージですが)このあいだ開かれた「図書館系ブロガーオフ会」でも、図書館員はあまり個人ブログで情報発信しない、という話が出ていたのも思い出します。今までの社会では、サービスを提供している人々はあまり表に出るべきではないという風潮がありました。しかし、現在ではむしろ、サービスの提供者がブログを通して積極的に個性をアピールするということが肯定されるようになってきているように思います。

ブレンディッド・ライブラリアンという新しい概念

著者はさらに、双方向性を備えた次世代の図書館員として、「ブレンディッド・ライブラリアン」という米国の概念を紹介します。


米国の最近の議論では, ブレンディッド・ライブラリアン( blended librarian )という概念も見られるようになっている。ブレンディッド・ライブラリアンとは, 伝統的なライブラリアンシップに適切な情報技術についての知識と技能を持つだけではなく, カリキュラムデザイン, インストラクション技術についての知識や技能を持つ図書館員のことを指している。このような考えが出てくる背景には, 図書館員を教育プロセスの中に統合していかなければ, 図書館員は大学の中でマージナルな存在になってしまうという危機意識がある。
この論文では大学図書館の図書館員として説明していますが、つまり利用者の質問に答えていくというだけでなく、利用者の抱えている問題に積極的に介入して問題解決まで導いていくことのできる図書館員が「ブレンディッド・ライブラリアン」なのだと思います。

論文を読んで考えたこと:ワークショップ的図書館論

他人の問題を理解し、その人が自分自身で解決できるように導いていくことをファシリテーションと呼び、それを担う人のことを一般的にファシリテーターと呼ぶそうです。そして、ファシリテーターの支援のもと、人々が自由に行動して新たな問題解決方法を発見するような手法のことをワークショップと呼びます。ワークショップは、まちづくりの集会や研究会など明確なリーダーが登場しない場所でよく使われており、最近では子どもの創造性を伸ばす体験学習プログラム手法としても活用されています。
竹内氏の論文で挙げられている「利用者どうしのインタラクティブな関係性」とは具体的には、共通の問題を抱えた利用者どうしが席を寄せ合ってコミュニケーションをとる、きわめてワークショップ的な状況のことを指すのだと私は思います。
これまで、図書館員が支援できるのは利用者から提示される質問や資料の要求に答えるだけであり、そのおおもとの問題にはかかわることができませんでした。また、利用者どうしが問題を共有していく、という場面も生まれませんでした。しかし、これからは、利用者の活動に他の利用者や図書館員が参加していく、というサービス形態もあっていいのではないでしょうか。利用者の問題に他の利用者や図書館員が継続的に関わっていくことで、問題に対する理解を深め、コミュニケーションをとっていくことで、図書館員はより本質的な情報提供を行っていく。それはつまり図書館そのものが1つの「ワークショップ」として機能し、図書館員がファシリテーターとして働きかけていくということです。
このような図書館のあり方は一見非現実的であるかのように思えるかもしれませんが、ビジネス支援などは利用者の問題に深く介入していく必要があります。また、それに関連した講演会なども最近では開かれています。このようなサービスが現実に存在し、注目を集めているのを見れば、この方向性も間違いではないと思います。特殊なケースとして扱われていた形態が、全体へと広がっていくだけなのです。
そのようなサービスを展開すれば、「あの図書館でミーティングしていると、図書館員さんがアドバイスしてくれるからあそこでやろう」というような期待を利用者が持ってくれるのではないでしょうか。
そのような期待が多くの利用者から持たれたとき、はじめて図書館は『電子図書館の神話』で提示された「場所としての図書館」の意義を持ち得るのではないかと私は思うのです。

おわりに

以上、論文を読んでいて頭の中で思い浮かんだことを自分なりにまとめてみました。一介の学生が書いた意見なので、実際に図書館に勤めておられる方から見れば穴だらけの論理なのだと思います。ぜひ他の方々も意見を言っていただいて、より良い「場所としての図書館」論がネット上で展開されればうれしいです。

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